Wednesday, November 3, 2010

2009年(昨年度)における五感情報通信の研究

2000年に総務省(当時の郵政省)が開発研究の方針についてまとめた『五感情報通信技術に関する調査研究会 報告書』。ここで述べられている『五感情報通信』の研究が2010年の現在、日本国内ではどうなっているのか、最近の研究内容を紹介する。

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2000年には、総務省(当時の郵政省)は『五感情報通信』研究開発の互助組織化を官民の研究機関に呼び掛けていた。その後、この研究はどのような取り組みが成されて来たのかが気になる。現在稼働中の『五感情報通信』研究について、少し検索を掛けただけでも多数上がる。その例を幾つか揚げてみよう。


●『KARO FRONT 未来ICT研究センタージャーナル』

これは2009年、春の季刊誌から。
『コミュニケーションの未来を拓く脳研究』というタイトルの記事では、未来ICT研究センター 神戸研究所のグループリーダーが、一般の人向けに大変解り易い図解で五感情報通信を説明している。MRI を使用した研究らしい。彼の脳研究の原点は心理学だそうだ。こころの動きの基礎となる脳のメカニズムを解明することに興味を持ち、この研究に取り組み始めたと言う。尚、この研究は次に揚げる大阪大学とのコラボ研究だそうだ。この季刊誌内では研究の現状についての詳しい内容は記載されてはいない。

余談だがMRI 特に、非侵襲性の機能的核磁気共鳴(fMRI)を使用した例としては、サルやヒトのミラーニューロンの研究を記した、
『テクノカレント - ヒトミラーニューロン』(2007年)
などがある。




●『独立行政法人 情報通信研究機構』

これは、2009年1月5日発表。
『国立大学法人 大阪大学と独立行政法人 情報通信研究機構との脳情報通信分野における融合研究に関する基本協定の締結 世界最高水準の脳計測技術の実現』という記事から引用する。

この大学の研究チームは『“いつでも、どこでも、誰にでも、こころも” 伝える人にやさしい情報通信を目指す産学官連携の脳情報通信融合研究プロジェクトを始動』というテーマの取り組みをしている。「脳の機能に学んだ新世代のネットワーク」や「“こころ” を伝えることができる情報通信」の実現を目指しているそうだ。“こころ” を伝えることができる情報通信の実現のために、人の目、耳といった器官を通じることを前提として視覚情報や聴覚情報の伝達を行う現在の情報通信の方法では伝えきれない、アイデア、イメージ、感動、感情など様々な心の状態を情報として伝えられるようにするため、脳の働きと伝えたい情報の相互関係を計測・分析し、把握する研究だそうだ。

これにより、新しい情報通信パラダイムの創出…つまりこれら脳情報通信に関する研究開発により、「いつでも、どこでも、誰にでも、こころも」伝える新たな情報通信パラダイムの創出を目指しているとのことだ。つまり総務省が進める五感情報通信の研究である。このチームでは、「今後3年を目途に、脳情報通信の研究開発における基盤技術となる世界最高水準の脳計測技術を確立」出来る予定だ。これは2009年1月の記事であるので、2012年初頭には、世界最高水準の脳計測技術がこの研究チームによって確立される予定である。実に頼もしい。

このチームは原則として、「脳情報通信分野にかかわる “政府の指針” を強く認識し、他の研究機関との適切な役割分担、効果的な連携の下、その具現化に主要かつ主体的な役割を果たすことを目指します」と提言している。その“政府の指針”の中に、法の整備は含まれているのだろうか。それが一番の問題である。

また「生命の尊厳の重要性を常に認識して研究を行います。」とも言っている。この指針を政府レベルでも行ってもらいたいと切に願う。大学の研究室がこのような指針を提言しているのに、なぜ国としての公表をこれ以上遅らせるのだろう。例えば、アメリカは1997年に「機密の人体実験の禁止」を、フランスは1998年に「思考を読める段階にあるニューロ科学の進展に注意を喚起」と、他国ではすでに10年以上前からこれらの指針を政府として公式に発表しているのだ。

この大学には確か、BMI専攻で世界的な活躍をする石黒チームなど優秀な研究機関が揃っている。今後、この分野での技術の躍進には期待できるだろう。是非、その途中段階の技術の公表を願いたい(…ところだが、そうも行かないのだろう)。ともかく、これらの研究に携わる若い研究者達の手により、近い未来、研究の成功、技術の公表を行ってくれるのだろうと期待して止まない。


 
●『平成23年度個別施策ヒアリング資料(優先度判定)【総務省】』

来年度(2011年)用の最新技術開発に関連した総務省発表のヒアリング資料である。
この資料によると、バイオコミュニケーション技術として、「2015年までには、高次視覚情報の理解に関わる脳活動マッピング等ICTシステムにおけるパラダイムシフトをもたらす基盤技術を確立。…脳内情報やパフォーマンスの予測する技術など脳内情報復号化モデルを構築」が目標らしい。2015年、つまり4〜5年後には確立される予定だ。そう遠い未来ではない。それらも含め、テラヘルツ波を使用したリアルタイム非侵襲センサ・イメージング技術など、多方面の最新技術研究に当てるH23年度(来年度)概算要求額は38億3千5百万円だそうだ。

また、この資料の中では、世界トップレベルの基礎研究成果として、下記を揚げている。
・高次視覚情報の認識にみられる脳の創造的な活動を定量化する指標を提案。
・低次視覚情報や運動制御情報など脳内情報復号化に成功。
つまり、脳内の電磁信号のうち、視覚情報や運動制御情報の符号化はすでに日本国内でも開発済みであることが伺える。繰り返しになるが、これらの脳内の電磁信号解読などは、個人情報保護の観点からの問題や、また、認知神経学(心理学的なニューロ科学分野)のインフォームドコンセント(説明と同意)なき人体実験の危険性についても合わせて考慮し、司法面からの取り組みも順行しなければならない研究である。が、残念なことに日本では現段階において、新しい法規制の提案、法改正の準備、または(フランスのような)この研究の危険性についての懸念表明は行われていない。今後の速やかな国家レベルでの対処を期待する。


※参照:内山治樹 著『早すぎる? おはなし』
※『五感情報通信技術に関する調査研究会 報告書』